2001.10.6

インターンシップ研究会・研究概要

ファッションビジネス教育研究会
発表者:本山光子
代表
オフィス・エム・ツー

  1. 本年度の研究テーマについて

    学生にとって在学中に企業で自らの専攻やキャリアに関連した就業体験を積むことで、自分の能力や適性を考え、就職活動にも役立てることのできる「インターンシップ」は、今確実に広がっている。

    また企業間競争が激化し、一定のスキルを持ち、早期の即戦力化が期待できる人材を確保したい企業側も、この「インターンシップ」の制度の効果を認め、従来の採用活動とは連携しない「インターンシップ」制度に加え、新しく採用直結型制度を導入するところも出てきている。これらは特に外資系企業や電機器メーカー、情報関連企業などを中心に広がりを見せている。

    ファッション業界においても、以前から服飾専門学校を中心に、営業・販売、企画などの短期体験実習は実施されてきているが、現在景気悪化のあおりを受け、実習先となる受け入れ企業の減少、学生のコミュニケーション能力の低下により受け入れを辞退する企業が出るなど問題を抱えており、順調に「インターンシップ」が広がっているとは言えない状況にある。

    そこで当研究会では本年度の研究テーマとして「ファッション業界におけるインターンシップの実態調査とケーススタディ」をかかげ、ファッション業界における有効な「インターンシップ」のあり方、学校、企業の体制づくりの課題についての研究をすすめることにした。

  2. 研究方法

    1. インターンシップを実施している企業に対して、主として次のような項目でヒアリングによる実態調査を実施。
      • いつから導入しているのか?
      • 目的、主旨は?
      • 対象学生は? (学年、学部・コースなど)
      • 受け入れ学生の選考方法は?
      • 受け入れる学生の人数は?
      • 実施時期、実施期間は?
      • 申込み方法は? 学校側の窓口(コーディネート)は誰が行っているのか?
      • 会社側での受け入れ態勢はどのようになっているのか?
      • インターンシップで、実際に学生が行っていることは?指導方法、具体的なスケジュールは?
      • 報酬、交通費などの支給は?
      • 達成度、成果をどのように把握しているのか?
      • 採用への効果は?
      • 問題点、学校・学生に対する要望は?


    2. インターンシップを実施している学校に対して、主として次のような内容でヒアリングによる 実態調査を実施。
      • いつから導入しているのか?
      • 目的、主旨は?
      • 実施企業の選別、決定はどのようにして行っているのか?
      • 対象学生は? 学年、学部・コースなどは?
      • 参加学生の選考方法は?
      • 実施時期、実施期間は?
      • 参加する学生の人数は?
      • 企業への申込み方法は? 学校側の窓口(コーディネート)は誰が行っているのか?
      • 会社側での受け入れ態勢はどのようになっているのか?
      • インターンシップで、実際に指導される内容、具体的なスケジュールは?
      • 報酬、交通費などの支給は?
      • 達成度、成果をどのように把握しているのか?
      • 就職への効果は?
      • 問題点、企業に対する要望は?


  3. 研究経過について

    1. 企業に対する実態調査結果

      子供服~教育まで子供に関するトータルな生活を提案する企業の場合
        販売営業実務に関するコースの内容
      • 年2~3回東京と大阪の2会場で行われるファミリーセールにおいて、3日間実施。指導兼準備として1日、販売実務体験として2日間を設定。
      • 社風の本質を感じ取ってもらうこと、社会人としてのマナーの大切さを感じ取ってもらうこと、また販売業務全般の業務概要を掴んでもらうことが目的。 
      • ホームページ、就職ジャーナル、一部の学校などへの公募により、オープンな形で募集。対象学生は特に絞り込んではいないが、現在のところ大学3年生が主な対象となっている。特に厳しい選考を行うわけではないが、通勤方法などの点で問題のありそうな場合は、参加を断る場合もある。
      • 1回に両会場合わせて100名程度を募集し、参加者は販売、キャッシャー、受付、コミュニティの4つのポジションに分かれて研修を行う。
      • 会場において、特に販売に関しては社員1名に4~5名の学生が配置され、販売方法、商品陳列・演出 方法などの指導を受けながら実務を行うが、各自に1コーナーの責任を持たせる。
      • 研修期間中は毎日各自からアンケートを回収し、次の日の指導、更に業務にも生かしている。
      • 3日間という短期間ではあるが、単なるアルバイトではなく、スタッフの一人という意識を持たせるため、必ず社員は学生に対して名前で呼ぶことを徹底している。
      • 報酬は交通費込み1日8000~9000円を支給。


      この企業の場合、子供服の販売・営業実務に関する短期間のインターンシップと、企業全体の事業戦略の組み立て方、事業活動を理解するための長期インターンシップの2つのコースを、3~4年前から導入している。

      販売・営業実務のコースでは短期間のため、指導内容もセール会場における販売実務のOJTに絞り込まれており、具体的に実務のスキルを身につけさせるというよりも、学生に適性を見極めてもらう場としてインターンシップを行っている。

      企業のメリットとして、社風が伝えられる、サービス業としての本質を掴んでもらえる、セールの人員として役立つということの他に、実際の採用にもかなりの効果を上げている(内定者のほとんどがこのインターンシップを経験した者)。同時に、サービス業への就職を希望する学生にとって、ある程度責任を持たされて2日間の実務を体験することから充実感を得られ、自分の能力・適性を判断する一つの場として効果を上げているといえる。

      販売営業実務に関する長期間のインターンシップについて、以前研修マニュアルも作成して実施したが、現場の負担が大きすぎるという利用で継続を断念した。

      一方トータルな事業内容を理解するためのインターンシップでは、外部のインターンシップグループを通して、関西の大学から1回2~4名の学生を受け入れ、人事の担当者が2週間帯同して研修を行っているが、成果が十分とは言えず、今までのところでは採用にはつながっていない。これはアパレルの専門職種ではなく、宣伝部門、営業部門、出版部門などほぼ全部門を広く浅く体験させる研修が中心となっているためではないか?

    2. 学校に対する実態調査

      服飾専門課程でビジネスコース、デザインコースの2コースを持ち、共に3年制をとっている地方の専門学校の場合

      • 卒業年度にある全学生を対象として、夏休み前に短期と長期の2種類の企業実習を実施。
      • 県内の場合は中小のアパレルメーカーが受け入れ先の場合は5日間の企業実習。一社のみ県外で3週間の日程でインターンシップを体験(今年度は希望者1名)。
      • 研修先は主に学生各自の就職希望先を選択させるが、希望が明確になっていない者は教師が決定。
      • 研修内容は県外の1社を除いて、営業実務のアシスタント、生産管理のアシスタント、企画のアシスタントなど。特に研修期間のスケジュールはあまり明確にはされていない。
      • 県外1社の研修内容は、実務の場ではなく、研修室にて企業のブランド戦略についてのレクチャー後、各自一つのブランドを想定したMD企画書の作成~サンプルづくりまでを各担当者が指導してくれ、1~2日企画室においてアシスタント業務を実施。
      • 研修期間は終業後学校に各自が電話またはメールによる報告。教師とコミュニケーションを取りながらすすめている。研修終了後は学校にてレポート作成により成果を確認。但し企業からの明確な評価は無し。県外の1社に限りA~Dまでのランク評価があるが、それと採用が直結しているわけではない。
      • 県内、県外に関わらず、報酬、交通費は実費負担。県外の3週間の長期研修の場合も宿泊・交通費は実費で参加。


      この学校の場合、単位の一つとして企業実習、「インターンシップ」が組み込まれているので、全員参加のため、学生のコミュニケーション能力、知識レベルの差により、受け入れ企業への負担が大きくなっている。また単位として認められているが、実習時期や期間が企業によりバラバラであるのにも関わらず、講義のある時期に組み込まれているので、通常組み込まれている講義に1~3回欠席することになるので、学生への負担も大きい。

      また企業により研修内容、スケジュールの組み方の差があり、特に短期の受け入れ企業の場合は、明確な内容、評価が設定されていないため、学生が成果を認識しにくい。(単に雑務をこなしただけと受け取ってしまう場合が多い)研修内容を企業に任せきりにするのではなく、学校側としても内容、評価について検討し、企業へ提案をして成果をあげられる研修に改善していく必要がある。

      また研修前には研修に向けて、単なるオリエンテーリングだけでなく、社会人としてのマナー、社会人としての実務への取り組み方などの実技を含む講義を行っておくことが必要ではないか。

以上