2001.10.6

イメージ・コンサルティング教育事業の成立条件とその成長機会
−ファッション・マーケティング的考察−

発表者:針木 文(宝塚造形芸術大学大学院)
橘 喬子(夙川学院短期大学)
菅原 正博(宝塚造形芸術大学)

  1. 研究目的

    これまでファッション・ビジネス教育のなかで、ファッション小売業の売場で接客面で顧客と対応する職種を専門に担当する「ファッション販売職」が注目されてきた。しかし、近年ファッションは多様化しており、個人の自己表現として自由自在にファッションを楽しんでいる、成熟化した消費者が益々増えている。こういった消費者は、小売の店頭で、接客の一環としてサービスを提供するファッション・アドバイス(助言)だけでは満足しなくなってきている。そこで本研究は、まず最初にイメージ・コンサルタントがいかにファッション消費者生活段階やマスコミ段階で話題になりつつあるかという点を現象面で考察し、こういった研究が特に米国で先行しいる歴史的背景を簡単に紹介したい。

    第2は特に日本でこのイメージ・コンサルタント職種がファッション・ビジネス業界でどのような形で定着するか、もし定着するとすれば、学校教育段階でどのようなカリキュラム展開が可能か、という点に関して私案を提案することにしたい。

  2. 研究方法

    これまで消費者行動を探ろうとする場合、年齢で区切り、多数のランダムに選定した調査対象者にアンケート等の調査を行う定量的調査を行い、年齢層での分析が行われてきた。しかし、最近では調査対象者が属するライフステージ別の消費者文化を解読する研究が注目されつつある。ここでは消費者文化構造を支えているテイスト的側面は、この「ライフステージ的側面」と、内面的側面ある「アート的側面」の二側面によって構成されるという仮説をたてた。

    この仮説を検証するために、今回はこのライフステージの中から、団塊ジュニア世代の消費者文化構造を探る定性的調査を、28歳前後の一般社会人女性5名をインフォーマントとしたエスノグラフィーによる調査をと「自分のなりたいイメージをマップにコラージュしてもらう」という投影的手法をベースにしたアートグラフィーによる調査との2段構えの調査を行った。

  3. 調査結果

    エスノグラフィーによる調査では5名のインフォーマントを対象にしたにディプスインタビューの内容を解読し、そこから「育った環境」「仕事と結婚の意識」「ファッション感」の3点にそって抽出した。その結果、自由裁量金額は高く、ファッションへの関心も支出金額も高い。自分の年齢相応の着こなしや、自分が第三者からどのように見えているかということに関心が出てきており、自己のアイデンティティの確立に向けての意識の変化が見うけられる。また自室のインテリアにもこだわり、旅行や趣味にもお金と時間をかけ、エンジョイしている。しかし、その反面、仕事や人間関係に大きなストレスを感じており、今もなお、「自分探し中」である団塊ジュニア世代の彼女達の姿が浮かび上がってきた。

    アートグラフィーによる調査では、「色・スタイル・バランス・ハーモニー・エンファシス・リズム」といった美学的要素によってカテゴライズしようとするものである。このアートグラフィーによる分析からは、「トラディショナルベーシック」「コンテンポラリーキャリア」「アクティブスポーツ」「エスニックカントリー」の4つのカテゴリーに分類できた。また、「育った環境」「仕事と結婚の意識」「ファッション感」から見たポジショニング表を作成し、イメージコンサルティングの必要領域が明らかになった。

  4. 考察

    団塊ジュニア世代のライフステージは、エスノグラフィーを用いて分類することが可能である。5人の調査対象者は、ちょうど団塊ジュニア世代に該当しており、同じライフステージに属していながらも、5人のインフォーマントのポジショニングの違いは、一般的には個性による違いとして理解されているものである。しかしこれは、アートグラフィーによる分析が、個性やテイストという主観的で漠然としたイメージやアイデンティティをカテゴライズした結果といえよう。ライフステージ間の境界線が薄れてきている今日、ライフステージを中心としたエスノグラフィーと、アートグラフィーの2軸による分析が、特にファッション消費者文化構造の解読には、より有効に作用すると思われる。

    今回の調査対象で選んだ団塊ジュニア世代のキャリア・アダルト層にとって、イメージ・コンサルティングの市場機会が期待できる、という結論を得た。特に「トラディショナルベーシック」及び「コンテンポラリーキャリア」志向を持っている人には、かなり関心が高いことが判明した。今後、日本の市場でも、イメージ・コンサルティングの市場機会は成長性が期待できると判断できる。しかし、それが本当に実現するかどうかは、日本の女性のオシャレ生活習慣に関する多面的な定性調査を必要とする。

以上