インターネット上でのデザイン発想支援システム
Design support system on the Internet(DESSIN)

木本晴夫NTTサイバースペース研究所Haruo Kimoto
徳永聖一郎ジャパンカラーマーケティング研究所Seiichiro Tokunaga

  1. はじめに
    抽象的な感性語を思いつくことをデザインの出発点として、最終的な服飾デザインにいたるまでの種々のステップにおいてユーザを支援するデザイン支援システムDESSINを作成し、服飾デザイン専門学校において15人の生徒に試用してもらいアンケート調査をおこなったので報告する。DESSINシステムは、配色辞書、それを利用する画像検索システム、各感性語に対応した合計90体のモデル画像を内蔵している。

  2. DESSINシステムの概要
    DESSINはデザイン教育を支援する目的で作られた。また、デザインを開始するときと終了したときとでデザインコンセプトが変わってゆく状況をデザインで使う感性語の変化によって把握して、その変化状況のデータ収集と分析もおこなえる。デザインの対象として今回は服飾デザインを選んだ。DESSINは服飾デザイン教育の各ステップにおいてユーザを支援する。支援する事項は次のとおりである。

    1. デザインの出発点としてユーザは感性語を選ぶ。そして、その感性語に基づいてデザインのベースとする花などの画像データベースを効率良く検索する。
    2. 各感性語に対応する配色を辞書としてシステムに内蔵していて感性語が指定されるとそれに対応する配色を表示してそれを使って配色デザインがおこなえる。感性語によって検索された画像の代表色も配色として表示される。図1に感性語「洋風の」に対応する配色10パターンと「洋風の」によって検索された画像ならびにその代表色を示す。
    3. 上記の2項の配色の他に、ブルーベース(別名はブルードミナントまたはBD)とイエローベース(別名はイエロードミナントまたはYD)の各パレットを配色デザインのために表示する。
    4. 各感性語に対応するモデル画像をおのおの3体づつシステムに内蔵していて、感性語が指定されるとモデル画像を表示する。各モデル画像はトップ、ボトムなどの数個のパーツから構成されている。ユーザはモデル画像の各パーツに着色する。着色はマウスのドラグ&ドロップによって容易におこなえる。図2はモデル画像に着色をおこなう画面である。この画面では感性語に対応する配色(ユーザが選んだ1パターン)とBDまたはYDのパレット、そして感性語に対応するモデル画像が表示されている。
    5. 最終的に出来上がったデザインに対して、ユーザはそのデザインから受ける印象をあらわす感性語を選んだり、デザインに対する自己満足度を入力することなどが可能であり、作業中でのデザインコンセプトの変化やそれに対する自己満足度などの統計用の基礎データの自動的な収集が可能である。このデータを分析することによって、デザイン作業中でのデザイナの心理分析が可能となる。
    6. インターネット上で使用可能である。
      http://www-db.isl.ntt.co.jp/~exdemo/kansei/www/MMIR4/kansei.html
      image1.jpg (27k)
      図1. 感性語「洋風の」に対応する配色と、「洋風の」を使って検索された画像の代表色


  3. DESSINのシステム構成
    DESSINシステムは以下の部分から構成される。
    1. 配色辞書
      感性語180語が登録されていて、個々の感性語は10個の5色配色を持っている。
    2. 感性語による画像検索部
      検索対象は花画像100枚で、検索キーは感性語である。検索に使える感性語は50語である.この50語は配色辞書に登録されている180語の中からアンケートによってよく知られている50語を選んだものである。各花画像からは代表色としての5色配色を事前に抽出しておく.代表色は色面積の大きな色とした。検索方法は感性語と花画像の配色同士の色空間(L*a*b*)上での距離計算をおこない距離の近い順に類似度が高いとして画面上に検索結果を表示している。
    3. BD,YDカラーパレット
      BD,YDの色パレットで,おのおの162色である。
    4. モデル画像90体
      検索に使える50語の中からさらに20歳前後の人にもよく知られている30語を厳選した。30語の感性語に対応させてその雰囲気をあらわしているモデル画像を作成した。1語について3体作成し、モデル画像の合計は90体である。各モデル画像はトップ、ボトム、靴、靴下、アクセサリーなどのパーツに着色可能である。
    5. 統計データ収集部
      モデル画像への着色結果について自己評価などをおこなう。着色の自己満足度を入力する。また、出来上がったデザインに対してその雰囲気をあらわす感性語を付けて、最初の感性語と比較することによって、デザインが最初のコンセプトの通りに完了したか、デザインコンセプトが変わってしまったかのデータ収集蓄積をおこなう。また、デザインの自己満足度のデータ収集をおこなう。


  4. 服飾デザイン教育のコースとして利用可能
    DESSINでは一連のコースをたどることによって服飾の配色体験が可能となっている。コースの流れは次のとおりである。まず、デザインの出発点として感性語を選択する。システムが感性語の雰囲気を持つ花画像を自動的に検索する。検索結果の中からユーザはデザインのベースにする花画像を選択する。花画像の代表色と、選択されている感性語の配色(10パターン)が表示される。デザインで使う配色を選ぶ。必要に応じてモデル画像を選択する。配色をマウスのドラグ&ドロップ操作でモデル画像に着色する。着色の結果を自己採点する。自己採点で不満のときは最初の感性語の選択からやり直す。
      image2.jpg (34k)
      図2. モデル画像への着色画面


  5. DESSINシステムの試用とアンケート調査結果
    服飾デザイン専門学校にてDESSINシステムの試用をおこないアンケート調査をした。23項目のアンケートを実施して現在は分析中である。次に1つのアンケート項目とそれへの回答を集計したものを示す。 アンケート項目:「紙の上で手で色付けする方法とDESSINシステムを使って色付けをする方法とではどちらを使いたいですか」。アンケート調査をした生徒は15人であり、そのうちDESSINシステムを使いたいと回答した生徒は9人で、どちらの方法でも良いと答えた生徒は6人であった。全体の2/3の生徒がDESSINを使いたいと答えたことからDESSINは色彩デザイン教育において有効であると考えられる。
    おわりに
    服飾デザインにおいて一連のコースの中の種々のステップにおいてユーザを支援するデザイン支援システムDESSINを紹介し、DESSINを試用したアンケート調査結果の一部を報告した。アンケート調査結果ではDESSINの有効性が確認された。今後はアンケート調査データを集計分析して、デザインの過程でのデザインコンセプトの変化状況とデザインの満足度についてデータ分析をする予定である。

    参考文献
    木本晴夫:感性語による画像検索とその精度評価、情報処理学会論文誌、Vol.40, No.3,pp.886-898(1999)
    徳永聖一郎:ビジュアルカラーコーディネート(仮題)講談社(2000年出版予定)

    於:2000年2月19日 ファッションマルチメディア研究会