情報は全て現場にあり
井上英隆氏
株式会社パル 代表取締役社長

ファッションは戦後20年代、30年代は物不足の時代ファッションどころではありませんでした。40年代に入ってやっと物不足が解消し初めてファッションが云われる様になりました。ところがファッションはまだ未熟でメーカーやデザイナーがプロダクトアウトしていれば売れていた時代でした。どのアパレルも大変儲けた時代でした。

55年以降40年代に育った子供達がファッション雑誌を見て育っていますから、感性のレベルが上がってきて消費者は個性化、小衆化、多様化した。パルはこの時代にマッチした提案をし、やるべき事をちゃんとして来たから業績を伸ばす事が出来ました。

そのやるべき事は一番消費者に密着している、現場の人達にパワーを持たせる事が出来ました。いわゆるマーケティングインの時代に入り、消費者がどんな商品を望んでいるか、現場の人達が顧客のニーズをしっかりつかんででいる事が重要です。「拝啓社長殿」という制度を作り、それをどんどん提案させました。

もう一つはファッションの流れが12年周期でまわっています。それもスパイラルに回っています。各店の毎週、毎月の情報が常に手元に入りますから、サイクルが何処に来ているかを私が適確に把握しています。そこから「ネクスト」は何かを100%当てる事が出来ます。そして私が「ネクスト」と判断したら、どんどん部下にやらせます。それで成功したら、評価を高めます。しかし失敗するケースもあります。社員には責任は取らせません。3つの内2つ成功すれば良いと心に決めています。

現場の社員がパワーを持っているのをを最大限活用しています。採用時に学校、成績、国籍など関係ありません。面白い学生、個性がある学生、提案力のある学生、どこか切り口を持っている学生、こういう学生を採用しています。そして30才位になると感覚がずれて来ます。そういう社員は本部で幹部、役員なっていきます。もう一つは独立制度を設けていて、会社40%個人60%の出資で店舗を買い取らせ、利益が出れば独立した人の取り分が多くなりますから、意欲的に経営をし、周りの者も独立出来ると感じる訳です。前向きのリストラです。我が社には効率の悪い中高年はいません。

基本は12周年サイクルが適確に流れを捉えています。我が社の独自の3ケ月MDマップがあります。これを常に検証しています。それも百聞は一見にしかず、でビジュアルに見せる事の出来るマップです。毎月の流れ、大きな変化がある時は現場で確認します。社長はディレクターであり、演出家です。演技は俳優が演じます。適切な役者を選ぶ事、次の「ネクスト」はこれだと判断する事これが社長である私の仕事の70~80%は終わりです。

イトーヨーカドー、セブンイレブンのシステムは大変立派で良く出来ています。問題はデーターを読み取るだけではなく、データーの裏を読み取らなければなりません。何故かと云う根拠です。それは現場を知る事です。何故売れたのか、何故売れなかったのかこれは全て現場だけが知っています。その点は我が社は徹底しています。1週間に1回の会議でMDにフィードバックします。何故を知りますからMDの質がどんどん向上し、どんどん新しい提案が出ます。

12年周期のマップをしっかり見ていますから、3年後まで略見通うしています。「チャオパニック」は現在絶好調ですが、2年後は少し売り上げも下がると予想しています。それでも利益はちゃんと出る様にしています。そこで「ネクスト」を一生懸命育てます。スクラップ&ビルトはどんどん実行します。損が出ても何とか長持ちさせようと努力するより、新しいもの開発した方が遥かに速いし、社内も活性化します。新しいものを開発すると次々に希望が生まれ自分もやってやろうとなります。利益追求だけでなく、こういう社風が若い社員を幸せにすると確信しています。

新業態の「スリーコインズ」も単に価格が安ければ良いものでは無く、ヤングの感性やライフスタイルに対応していますから、現在世間で話題になっている100円ショップとは根本的に違います。1000円の物を300円で、しかも感性がある商品ですから、100円ショップが近くでオープンしても悠々やっていけます。300円ショップは3年後に30店舗、売上60~70億円、利益は11億9千万円と3年後の損益計算書が出来ています。

新しい業態を開発し、推進して行くのに最も重要な事は小さく生んで大きく育てる事です。企業ですからリスクは当然あります。大手メーカーでしたら4~5億円の損を覚悟で新業態を展開するでしょう。しかし我が社は7~8千万円の覚悟でスタートします。我が社のリスクはそれほどでありません。しかし私のマップに照らし判断して行きますから、担当させる人のミスがなければ、流れを適確に読み、流れから外れない判断さえすれば、100%の確率で成功する自信があります。最後に現場がパワーを持っている。そういう人間を最大限活用する。そして私の12年サイクルマップと常に検証し、現場で確認する、これが全ての基本です。

99年10月2日(土) 関西支部発足4周年記念合同研究会
対談 「パルグループ急成長の秘密」から

2000年1月に発行されるファッションビジネス学会会誌に詳細が掲載されます。