研究会服装社会学研究会
  演田勝宏、伊賀憲子
会 場61教室
テーマ服装社会学研究部会の歩みと活動
1. 服装社会学の成立
服装学研究において、服装に関する社会科学的研究の必要性が指摘されたのは、半世紀近くさかのぽる頃といってよいだろう。服装学研究の初期段階で「服装」に関して、「それは衣服(被服)、すなわちモノに、人間の心理や行動などがプラスされた社会的状態を意味するもの」という定義をくだした人々にとっては、服装を社会的視野で捉えることは、当然のことであった。つまり、服装学研究の中に、社会科学的研究の必要性が意識されたのは、この段階にはじまる。そして、(1)服装が個々の人間の心理や行動と密着する性格を有すること、(2)社会的歴史的にみて伝統・慣習・民族・文化との関係を密にするものであること、(3)社会的経済的構造変動の結果、産業化が進み商品として流行やトレンドとしての性格を強めるものとなりつつあったことなどから、旧来の被服学というカテゴリーでは処理しきれなくなったため、広い意味での「社会学」との関連が濃厚になったのは、無理からぬことであった。

その結果、服装学の重要な一領域が「服装社会学」として設定されることになった。ただし、服装社会学という名称を用いながらも、服装社会学の研究に関係する人々は、大きく4つの領域を意識しながら、今日に至っている。すなわち(1)社会学的領域、(2)心理学(社会心理学)的領域、(3)文化人類学(民俗学)的領域、(4)経済学経営学的領域が、それである。

このとらえ方は、服装学研究とその教育が、大学の学部・学科を構成し、大学院における研究システムとして認知されるに及び、今日的な確立をみている。以上のような服装社会学研究の動きを底流に、服装社会学に関係する人々、あるいは服装に関する社会科学的研究を志向する人々の意向が結集されることによって、1986(昭和61)年10月、「服装社会学研究会」が成立した。ここに今日の「服装社会学研究部会」の実質的な誕生をみることができる。

2. 服装社会学研究会から服装社会学研究部会ヘ
この服装社会学研究会の結成とその後の活動に中心的役割を果たしたのは、荻村昭典教授である。同教授は、初期の服装社会学の確立にあたったし、同時に、教育・研究の場におけるわが国における最初の担当者として知られる。服装社会学研究会は、同年10月に第1回例会を開催している。その案内文に「この研究会は、服装をこれまでの自然科学中心の技術的部分の領域にとらわれず、人文、社会科学およぴ産業との関連を中心に服装教育の新しい展開をめざしていくものです。服装教育にたずさわる人は勿論のこと、社会学、心理学、マーケティング、消費行動、着装心理、家政学研究法、アパレル産業等にご関心の方々の多数のご参加をお願いいたします」とある。これは、服装社会学の研究とその展開についての考え方の一端を示すものと言ってよい。そして第1回例会では「服装教育に対する服装社会学からの提言(荻村昭典)」、「服装学と経済学における流行論の境界領域(木下武人)」、「社会学における学術研究と産業界との接点(松島静雄)」という課題報告がなされ、研究会の活動の指針が提示された。

第2回は翌年6月に開催されているが、一般研究報告、テーマ報告、課題報告の形式で報告討議がなされた。特に、一般報告の形式では、各種の領域で研究を重ねている研究者や大学院生による報告がなされ、活発な論議が展開されている。また、課題報告は、共通テーマを「服装学の現状と課題」に設定し、「社会学の立場から」「社会心理学の立場から」「経済学の立場から」論じられた。この研究会の例会の形式は、今日に至るまで大筋として継承されている。以後、課題報告は、共通テーマを選定しながら、シンボジウム形式で毎回開催されている。なお、共通テーマ自体は、研究者の関心の動向と社会的状況の変化に伴いさまざまな方向へと展開をみせている。すなわち、「服装学への展望」(第3回)、「服装に於けるデザインと社会規範」(第4回)、「服装社会学研究をめぐって基礎理論から応用研究へ一」(第5回)、「流行への服装社会学的接近」(第6回)、「豊かさの構造と服装」(第7,8,9回)というようにテーマが設定された。

ところで、服装社会学の研究にタッチする人々と、ファッション・アパレル産業の現状や将来に重要な関心を寄せる人々やジャーナリズムの世界にいる人々の関心とが合成される形で、「ファッションピジネス学会」が、1993年に発足した。当学会は、その設立の趣旨において、学界・教育界・産業界の接点という性格をより明確化するものであった。ファッションビジネス学会発足とともに、服装社会学研究会に参画していた人々の圧倒的多数は、当学会会員として加盟手続きをとった。また、当学会と旧来の研究会の志向するところは軌を一にするものであった。そこで、服装社会学研究会は、荻村会長の提唱もあってファッションピジネス学会の下部機関として位置付けられ、「服装社会学研究部会」となった。その点、学会発足後に学会員の内部的発意で形成されてきた各研究会とは性格を異にするものではあったが、今日まで活動を続けている点では何ら異なるところはない。したがって、服装社会学研究部会としての服装社会学研究会は、第7回(1994年7月開催)から衣更えをし、今日に至っている。研究会の開催方式は、従来のものをほぼ踏襲している。

3. 服装社会学研究部会の視状
第7回服装社会学研究会以来、ファッションビジネス学会の一研究部会として当部会は、年1回の例会を開催している。一般研究報告と課題報告(基本的には、共通テーマによるシンボジウム形式)という方式で実施している。一般研究報告では、大学院生を含めた若手研究者の報告が増加する傾向にあることは喜ぱしいことであるが、一方で産業界からの発表や参加が停滞気味であることは憂慮すべきことである。研究部会事務局としては、課題報告の共通テーマに産業界の動向を配慮した要素を取り入れるなどして発表者、参加者の動員をはかっているが、必ずしも効を奏していない。課題報告においては、共通テーマを別掲のように設定しながら、論議の視角が産学両面をカバーするものとなるよう視点とシンポジストを依頼している。なお、共通テーマの変遷は、研究動向の変化の一面を表現するものであり、社会状況や服装文化の反映でもある。その点でみると、「豊かさの構造と服装」を3回にわたって取り扱ったことも理解できようし、「流行」に関する問題がテーマ化することもうなずける。しかもそれらは、現代文化、現代社会の経済的状況や産業界の動向との関連で捉えなけれぱならない性格のものである。また、IT革命の進行による情報環境、若者文化としてますます特化する傾向も否定できない現代ファッションの問題は、研究対象はもちろん、その方法の開発という意味でも奥の深いものである。

因みに第15回研究会は、本年7月1日に開催された。一般研究報告では7件の研究発表がなされた。また、課題報告では、「服装と若者文化」という共通テーマにもとづいて、服装文化論、心理学、アパレルの商品企画といった視座からのシンポジストを迎えて、シンポジウムがなされた。そして、同例会には、例年同様延べ200人の会員、学生が参加している。

図1 服装社会学の領域